『ヘリ荷上げ営業からの脱却』を目指して

先日の投稿で、2020年は休業する意向であることをお伝えしましたが、
実を言いますと今期の休業を決めた理由にはコロナ禍とは別に、もうひとつ大きな理由がありました。

もちろん一番は、『山小屋は三密空間に極めてなりやすい環境である。』と言う事です。

平日は閑散としていても、休日になると狭い空間に大勢の人が集まることになり、天候が悪ければ換気もままなりません。
避難小屋と言う意味合いも強い山小屋ですので、いくら『完全予約制』と謳っていても悪天候で逃げ込んできた登山者を断る事は出来ません。
狭い密閉空間に大勢の登山者が長時間一緒にいれば、山小屋で出来る感染対策レベルでは感染を防ぐことは出来ないと思います。

また、登山者同士の感染も大問題ではありますが、万が一従業員に感染してしまった場合、営業どころの話ではなくなってしまいます。
空気の薄い高山で肺炎症状が出れば、リスクは下界の比ではないと言われています。
そのような環境で従業員を働かせる事は出来ないと判断し、2020年は休業する事に決まりました。

今後コロナ問題が劇的に収束して、薬も出回り、安心安全にお泊りいただける環境が整うのであれば営業再開も考えられますが、現段階では『恐らく今年は難しい...』と考えています。


2020年の休業を決めたもうひとつの大きな理由というのは・・・

実は昨年の秋、今まで契約していたヘリ会社から契約打ち切りの通達が届いてしまい、2020年からのヘリ荷上げが難しくなってしまいました。
違うヘリ会社と新規契約できないか問い合わせてみたりもしたのですが、池ノ平小屋のような営業規模の小さい小屋は見積もりすら取ることも出来ずに断られてしまう状況でした。

常々ヘリ会社の事情も聞いていましたので、規模の小さい池ノ平小屋が真っ先に契約打ち切りになったことは分からないでもないのですが、現代の山小屋の営業スタイルではヘリ荷上げなしに他の小屋と同じサービスを提供する事は難しく、小屋を存続できるか否かの大問題となってしまいました。

ヘリ輸送がダメなら人力で荷上げする以外方法がないですので、歩荷による荷上げも検討したのですが、池ノ平小屋までの道のりはどこの登山口から入山しても約10時間は掛かります。
アップダウンが大きく、季節によっては雪渓を長時間歩く必要もあり、決して歩荷が楽なコースとは言えません。
しかも公共の交通機関を利用しなくては入山できない為、早朝から歩き出すことは出来ず、例えば室堂からですと、早くても朝8:30からしか歩き出すことが出来ない環境にあります。
重い荷物を背負って1日で小屋まで行くのは容易ではなく、途中で泊まるとなると時間や経費負担も増えてしまいます。

それでも池ノ平小屋の関係者に、廃業を考える人は一人もいませんでした。

池ノ平小屋の歴史は、1916年に鉱山開発の拠点として事務所が置かれたことに始まり、その後登山客を泊める山小屋となって、建替えや改築を繰り返しながら今まで受け継がれてきました。
「その歴史を自分達の代で絶やしてはいけない!」と言う思いから、何とかして池ノ平小屋を存続させることは出来ないか...と関係者で知恵を出し合い、やれるだけの事をやってみようと言う事になりました。

大変な事だと言うことは分かりますが、やってみないうちから無理と決めつけるような人は池ノ平小屋にはいませんでした。

昨年秋に荷上げしていた食料や燃料がまだ小屋に残されている為、それを大切に使いながら、ヘリ荷上げをしないでもやって行ける山小屋に変えて行こうと言う事になりました。

大きな資材や重い荷物は、雪渓が繋がっていて歩行ルートに障害物の少ない5月~6月にまとめて歩荷し、今後は太陽光発電などを用いて、現地で得られる電力などは現地で入手できるようにしようと考えました。

定員を今までよりも減らし、食事提供も簡略化する事にして、食糧などはこまめに歩荷する事により、大きくサービスを落とすことなく営業出来るのではないかと考えました。

これが昨年末までのお話。

今年に入ってからは、ヘリ荷上げなしで営業する為には何が必要で、どのようにやって行ったらいいのか...などをそれぞれ調べながら過ごしていました。


しかし・・・

春が近付くに連れてコロナウィルスと言う未知の感染症が流行りだし、登山業界もこの問題で持ち切りになってしまいました。
池ノ平小屋も例外ではなく、ワクチンも特効薬もない状態で営業するのはリスクが大きく、今シーズンは休業と言う選択をする事に至りました。

ただ、この休業は池ノ平小屋にとっては悪いことだけではなく、むしろ今年一年を『ヘリ荷上げ営業からの脱却期間』と捉え、準備に専念する事が出来るようになりました。
当初は夏からの営業の為に、ほとんどの資材と食糧を短期間で歩荷する予定でしたが、どう考えてもかなり厳しい計画であった為、準備期間が来年の夏までに伸びた事は池ノ平小屋にとって幸運なことであり、敢えて言えば『神様が与えてくれた1年間』と考えることが出来ます。

北アルプスの中でも極めて辺鄙な所にあり、登山客の人通りも少ない辺境の地でどれだけのことが出来るのか・・・
今後も泊まりに来てくれる方々に素晴らしい思い出を残してあげられる小屋であり続けられるように、いま自分達に出来る事をひとつひとつ積み重ね、池ノ平小屋スタッフ一同がんばって参ります!


今シーズンは営業できませんが、小屋の風通しや整備の為に入山する予定です。
その時の作業風景や、小屋の周辺の綺麗な景色などをお伝えできればと考えていますので、お暇な時にでも目を通していただけると有難いです。

北アルプス 奥劔 池ノ平小屋 公式ホームページ

北アルプス 奥劔 池ノ平小屋 公式ホームページ

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